世界史において最も覇権を握った国といえば
イギリスと真っ先に挙げる声は少なくないが、
確かに「パクス・ブリタニカ(イギリスによる平和)」というフレーズは世界史の中でも重要なキーワードであるけど、イギリスは自国に多大な繁栄をもたらした一方で
他国を侵略、搾取、略奪の限りを尽くし、19世紀にはアジアやアフリカなどに多数の植民地を持っていたことも紛れもない事実、この本はそのイギリスの歴史から見る残虐性を知る為のものである。
「イギリス じつは血塗られた闇の歴史」(歴史の謎を探る会編・KAWADE夢文庫) 先史から侵略の歴史だったイギリス、
ローマ人から始まりケルト人、スコット人、そしてアングロ・サクソン人と後から来た民族による先住民族への残虐行為から始まっているイギリス、世界史における侵略国家の代名詞であるイギリスが実は被侵略国家だったというのは驚きだろう。かの有名な
アーサー王はウェールズ人のアングロ・サクソン人による怒りが生み出した伝説だったというのは、実はウェールズ人の創作だったということもビックリだった。
いつの時代も不当な抑圧に立ち向かう英雄がほしいという願望は変わらないってこと。「獅子心王」の異名を持つ
リチャード1世が実は韓国同様平然と交わした約束を破る卑劣漢だったし、
エドワード3世はフランス欲しさに戦争を仕掛けたんだから
(英仏100年戦争)、中世のイギリスは戦争とお家騒動を繰り返すものだったことを考えれば長いヨーロッパの王政の歴史において際立つものだろう。 そしてカトリックと袂を分かちイギリス国教会を立ち上げた
ヘンリ8世、結果としてイギリスはカトリックにケンカを売った上に国内の反カトリックを煽るというポピュリストまがいの言動に走ったわけだが、あのマルティン・ルターだけではなかったのは事実(カトリックにケンカを売った)。
プライベートでは結婚や離婚を繰り返すわ、ヘンリ8世はとんでもない王様だよなと思うね。 ヘンリ8世死去後も反カトリックを煽り、
ピューリタン(清教徒)が増えて結果清教徒革命につながってチャールズ1世処刑、オリバー・クロムウェルによる独裁(時同じくしてアイルランドに対する残虐行為も起こる)、名誉革命を経てスコットランド、アイルランドを強制併合するわけだが、それまではイギリスの残虐性を知らしめる序章に過ぎなかったのだ。 私掠船で堂々海賊行為を行いスペインにケンカを売って勝利するわ(アルマダの海戦)、一部の清教徒たちは北アメリカ大陸に移住してネイディブ・アメリカンを虐殺するわ、
カリブ海諸国の植民に食いっぱぐれた自国民だけでは足りずアフリカから黒人を奴隷として強制連行して砂糖やタバコなどと引き換えに儲けたり、アフリカに武器に渡して部族対立を煽って奴隷貿易に加担させるわ、かのナポレオンとの戦いではイギリスの強さを見せつけ「俺たちに逆らうととんでもない目に遭うぞ」と周辺国に対して脅しに近い姿勢を見せるわ。きりがないがでもそこもホンの序の口。 アイルランドで起こったジャガイモ飢饉を放置、インド欲しさにインドに言いがかりをつけて戦争(セポイの反乱など)を起こして最終的に植民地支配にこぎつけたり(セイロン島にタミル人を入植させ先住のシンハラ人と諍いまで起こさせる始末、これが後にスリランカ内戦につながる)、アヘン戦争を起こして香港を手に入れ、オーストラリアではアボリジニーを殺戮するわ、やりたい放題もここに極まれりだ。 その後は三枚舌外交(パレスチナ問題など中東問題の元凶)、アドルフ・ヒトラーに譲歩してナチス・ドイツによるチェコスロバキア併合を容認、敗色濃厚のナチスに対して容赦なく行ったドレスデン空爆、中東の石油利権欲しさにスエズ運河に軍事介入して反発を浴びたり(同時期にハンガリーで起こった民主化運動【ハンガリー動乱】を無視した)、現代ではアメリカのジョージ・ウォーカー・ブッシュ政権の起こしたイラク戦争に加担して反発を浴びたけど、こう見るとイギリスの歴史は他国を蹂躙しまくって繁栄した帝国主義丸出しの歴史もいいところだと思うが、紳士淑女という上っ面でそれを正当化したんだから、
ある意味国際社会におけるあらゆる問題はイギリスが作っていると思うね。アイルランドやインド、スリランカ、中東、アフリカなどイギリスが植民地支配した国って大体その後禍根と混乱をもたらしてることを考えたら、その通りかも知れない。 世界史において覇権を長く握ってきたイギリス、それは表の顔に過ぎない。実は侵略と搾取などを重ねてきた残虐な支配者としての面もある。ってことを覚えておこう。今年反人種差別デモや集会においてあの
ウィンストン・チャーチルの銅像まで攻撃の対象とされたが、
イギリスを戦勝国にした偉大な人物の一方で冷酷な人種差別主義者だったこともつとに有名。これについて保守的なイギリス人から
「ナチスからイギリスを守った偉大な人物なのに」と反論しているけど、
歴史的に見てそのナチスより残虐非道の限りを尽くしてきたイギリスがそう言うのはお門違いも甚だしいわ。 中国やロシア、朝鮮に匹敵、いやさそれ以上の国内外でかなり血生臭く残虐性の高い歴史を築いてきたイギリス、この本をイギリス人が見たら複雑な顔をすると思うね。
世界史が好きなら一度は目を通すことをおすすめします。
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